【曲名】"Walk On By"/「ウォーク・オン・バイ」【1969年】
【アーティスト】Isaac Hayes/アイザック・ヘイズ
【収録アルバム】"Hot Buttered Soul"/「ホット・バタード・ソウル」【1969年】
アイザック・ヘイズは、メンフィスを拠点に南部からブラック・ミュージックを発信したスタックス・レコードでスタジオ・ミュージシャン/プロデューサー/作曲家として大成功を収めたサザン・ソウルのドン的存在の大人物。Sam & Daveの"Soul Man"/"Hold On,I'm comin'"なども彼の作品。Carla Thomasをプロデュースしたのもヘイズ。1960年代以降のブラック・ミュージック隆盛に大きく貢献しました。
1967年にスタックス・レコードは親会社アトランティック・レコードから独立。ヘイズも1968年にデビュー作"Presenting Isaac Hayesを発表し、裏方から表舞台に躍り出ます。ところがセールス的に大惨敗となり、アーティスト・デビューは失敗に終わったかのように思われました。
ところが、スタックスは看板アーティストだったオーティス・レディングを不慮の事故で失ってしまいます。敬遠不振に陥ったスタックスは破れかぶれになったのかどうかは解りませんが、1969年に27枚の新アルバムを製作することを要求し、数合わせするかの如く、ヘイズの2ndアルバム製作のチャンスが舞い込みます。
結果として、彼の2ndアルバム"Hot Buttered Soul"は27枚の中で最大のヒットを記録することになります。
ですが、この"Hot Buttered Soul"はヒットしたから凄いと単純に決めつけてしまう訳にはいきません。内容的に大変興味深い試みがなされており、現在ではブラック・ミュージックの歴史的に考えて最重要作と位置づけられております。
"Hot Buttered Soul"1曲目収録の"Walk On By"がその象徴的な曲。
12分に及ぶ長尺曲である点がまず異例。曲自体はヘイズ作ではなく、アメリカ音楽界を代表するバート・バカラックが、1964年に専属歌手ディオンヌ・ワーウィックのために書き大ヒットを記録した曲のカヴァー。
ですが、単なるカヴァーに止まる内容では全くなく、作り替えてしまったと言うべき内容。ギター/オルガン/ストリングスなどがぶつかり合う複雑な構成となり、山あり谷ありの恐るべき構造を持つ楽曲へとヘイズは作り替えてしまいます。
当時のヒット曲は3分程度で起承転結がシンプルであることが基本でした。主役はもちろんヴォーカル。それらの大前提をヘイズは完全に破り、ジャズや現代音楽のように、ソウル・ミュージックに演奏やアレンジ/曲の構成で工夫を凝らすという考え方を持ち込み、かつ商業的に成功するという偉業を達成してしまいます。
後のP-Funkやプリンスなどへの影響は明らかで、ヘイズが提示した新しいアイデアは以後のブラック・ミュージックの発展に大きく寄与したことは言うまでもありません。ヘイズはブラック・ミュージックの価値を1段階引き上げた歴史的な音楽家と考えられます。
ウィキペディア:Isaac Hayes/アイザック・ヘイズ
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